ギンガクのビンヅメ Gingaku Skelton Writing Camp
菅野彰さんの〈自宅参加〉にかんするコメント
ものすごくシンプルに言うと、ビビったので家から参加することにした。
ふざけていない。本心だ。
もう少し、丁寧に書く。
二度目の緊急事態宣言に入ってから、陽性者のいない西和賀町に、
日々陽性者が増える地域から入っていくことに大きな不安を感じていた。
私が住んでいる福島県は独自の自粛要請が出されていて、県を跨いでの移動は「縦移動」と病院窓口で表現される。
予防して自粛する私は、疫病についても医療についても何一つ専門性はない。
緊急事態宣言の延長とともに、私は家から参加させてほしいと実行委員会に相談した。
中止してほしいとは思わない。ゼロか100かではなく、その間に無数にある多様な選択肢を探したい。
私は英断をしたのではない。不安とともに、責任の重さにギブアップした。
私よりもっと不安を抱える地域から西和賀町に入っていく他の参加者たちがそれぞれに判断することを、一つ一つ尊重している。
私は演劇人としての時間より、作家としての時間の方が圧倒的に多い。
演劇人は動かなければ演劇ができない。けれど私は日頃から家で仕事をしている。
「どうして家でできることを今移動してまで」
その問いに答えられる言葉を、作家としての私は今のところ持っていない。
話し合いを重ねて、実行委員会は「もっとおもしろくなる多様」について考え始めた。
話し合いの最後に、実行委員会の筒井さんと佐藤さんに現地入りをするのか尋ねた。二人は西和賀町に住んでいない。
「とても大切に思っている学生がサポーターで参加するからそれは行きたい。
けれど私は仕事で日々不特定多数の人に会っているので行けません」
筒井さん。
「僕が一番ハイリスクだと思います。仕事的に。
僕自身不安を抱えているので、菅野さんのような意見は出てくるだろうと思っていました」
佐藤さん。
行きたいよね。私も行きたい。
でも今回は、そういう思いをたくさん抱えて家から参加する。
「誰かに言われたからとか、社会がそうだからとか世間がそうだからとかじゃなくて、自分で判断したことを忘れちゃダメだよ」
地元の観光業の友人に言われた。
私は自分で判断した。
会期中家から参加して、きっと西和賀町に行きたくなるだろう。行けばよかったと何度も思うことだろう。
そんな私を、荒井啓利くんがサポートしてくれる。
まだ一度も会ったことがない荒井くんの言葉に、バトンを渡す。
一度も会ったことがない彼を、私は今信頼している。
菅野 彰
菅野さんに引き継ぎ、言葉を綴ります。
今の情勢の中で、「最善」な答えは何だろう、と考えていました。
自分は今回、県外から西和賀に赴く、何人かのひとりです。
だから菅野さんの判断を聞かされた時に、自分も行くか否か正直悩んで。
まだお会いしていないどころか、オンラインでの顔合わせすらしていなかったタイミング。
西和賀で、お会いするのを楽しみにしていたところでした。
ああ、やっぱりこれが今の情勢かあ、なんて、思ったりして。
感染症対策をいくら重ねていても、そうかもしれない。
でももう、流石にこんな時間が長すぎたんでしょうか。ネガティヴには、なれなかった。
菅野さんが最初に書いてくれた想いの中に、
「全てやる、全て中止にする、のではなくて、制限の中での多様な選択や可能性を示してもいいのではないか」、ってのがあって。
もしかすると、今の情勢だから、きっと、行かない人がいて、行く人がいる。そう、なれたんじゃないかな、って。
なってしまった、のではなく。
だったら自分は、多様である為にも西和賀に行きたい。そっちの選択をする人でいたい。
どっちが善いとか悪いとかじゃなくて。どちらも肯定している、しあえる社会の方が、なんかいいな、って、直感!です。
この鬱屈した状況から一歩踏み出したくて、この企画に参加したのだから。この鬱屈した社会の在り方的にも、一歩踏み出したい。
若くて未熟な、考えかもしれないけれど。こんな自分を支えてくださる実行委員の方々や、信頼してくれた菅野さんの為にも。
また、自分が橋渡しになって、西和賀の良さが菅野さんへ、出来上がる作品へ流れていく為にも。
そしてなにより、「最前」で、この過程を目撃する為に。
BAC←SPACE A PRIORI
荒井 啓利
「ギンガクのビンヅメ」に招聘予定だった菅野彰さんにつきまして、
新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みたご本人からの申し出により、
今回はご自宅から参加し、執筆していただくこととなりました。
執筆期間は他の招聘作家と同じく2月15日〜22日とし、
中間発表会や前夜実況大会、23日・24日のオンライン・リーディングにも、
この期間に執筆した戯曲でご参加いただきます。
菅野さんは、私たちが発信した
「面白すぎた2020年なんかに、負けてたまるか。」
という呼びかけに応じて、今回のプログラムに応募してくれました。
招聘決定後から何度もやりとりし、
西和賀で会えることや今後続いていくであろう関係について、
お互いに心躍らせながら準備してまいりました。
今回ご自宅からのご参加となったこと自体は残念ですが、関係者一同、
楽しみがひとつ先延ばしになった(あるいは少しふくらんだ)ものと受け止めています。
「ギンガクのビンヅメ」はコロナ禍だからこそ「負けてたまるか」と企画した合宿です。
私たちは文化芸術に携わる者として、どうしたらこの状況に可能性を見出し、
プロジェクト運営として提案することができるかを常に考えています。
ただただ「もうダメだ」と言ってしまったらそれこそが私たちにとっての「負け」です。
それを汲んで下さった菅野さんは、今回の自宅参加を(また、他の方々が対策の上で西和賀に滞在することを)
「多様な参加のあり方」と表現してくれました。
ものは言いようと思われるかもしれません。その通りです。
なんたって今回はもの書きにカンヅメもといビンヅメ合宿をさせて、
そこで書かれたものをわざわざ俳優たちに口に出して言ってもらうイベントをやる企画なのです。
ものの書きよう、言いようがすべてです。
私たちも私たちで、菅野さんに自宅参加を選ばせたこのコロナ禍を
どんなふうに言ってのけることができるのかをずっと考えています。
少なくとも「コロナのせいで招聘作家がひとり来れなかった」なんて言いません。
だってそんなの、何も生まれないし分かりきってて面白くないじゃないですか。
こんなコロナ禍だからこそ、私たちは私たちなりに求めるべき未来を模索して示していきたい。
そのためには「ひとり不参加」ではなく「ひとり自宅参加」であり、
それは「多様な参加のあり方のひとつ」でなくてはならない。
ものには言いようが必要なのです。
「負けてたまるか」と始めた企画ですが、面白すぎた2020年はもうどこかへ去ってしまいました。
ちぇ、せっかく面白かったのに。
まあ2021年は、勝ちましょう。ギンガクは勝ちます。
というわけで、来る2月15日から「ギンガクのビンヅメ」がいよいよ始まります。
菅野さんをはじめとする5人の作家と5人の執筆サポーターと1人のカメラマンと、
オンラインで参加する10人のコメンテーターと11人の俳優たちの
「ものの言いよう(と撮りよう)」をどうぞお楽しみに!
ギンガク実行委員会事務局
小堀 陽平